「好きだ」
最初はこちらも酔っていて、彼の言ってることがよく飲み込めてなかった。
「へ?青年なんて?」
「だから、レイヴンのことが好きだ」
「す、き?」
「ああ」
酒に酔ってふわふわしていた頭ではユーリの言葉の意味を正しく理解するまでに少々時間がかかった。
その間にユーリはテーブルの向こう側から横に移動してきていた。
「なあ、レイヴン…」
ずいっと乗り出してくる美形の迫力にだんだん酔いが醒めてくる。
のばされた手から逃げるように思わずのけぞった。
「や、やだ〜、青年酔ってんの〜?」
「酔ってるかもしれねえけど、冗談じゃねえぞ」
酔っ払いの冗談だろうと、わざとふざけた感じで返してみるもユーリはさらに迫ってくる。
「レイヴンは俺のこと嫌いか?」
「嫌いなやつわざわざ家に入れたりはしねえ、け、ど…?」
好きか嫌いかでいえば、前者であるが。
しかし「好き」にも種類がある。
ユーリが今言っているのは明らかに恋愛感情の「好き」だ。
「じゃあいいじゃねえか」
「いやいやいやいや、そうじゃなくってっ!」
ちょっと落ち着こーね、と言ったくらいではこの酔っ払いは止まりそうにない。
どうしようかと考えているうちに、じりじりと壁際まで追いつめられた。
「レイヴン…」
「ちょ、まって!」
「っ!」
キスされそうになって、思わず、突き飛ばしてしまった。
「…あ…ごめ、ん…」
幸い突き飛ばした先にものはなく、ユーリはしりもちをついただけのように見える。
それでもユーリの職業を考えれば万が一にでも怪我をさせてしまっては一大事だ。
「ケガ、してねえ…?」
「…大丈夫、だ」
恐る恐る声をかけてみれば、さすがに突き飛ばされて酔いもふっ飛んだのかちゃんとまともな答えが返ってきた。
けれどうつむいていて表情が分からない。
どうしていいか分からず気まずい沈黙が流れる。
「…ごめん、帰るわ」
「帰るって、えっ…」
暫くして沈黙を破ったのはユーリの方だった。
ユーリは立ち上がって鞄を拾うと、そのまま一度も振り返らず出ていった。
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