「えっと、Aスタジオは…ここか」

青年から「レコーディング見に来ないか?」とのメールが来たので、レコーディングスタジオにやってきた。
メールに書いてあったスタジオの、防音扉の窓を少し覗いてみると、気付いた青年のマネージャーが中に入れてくれた。
「声をかけましょうか?」と言われたが断った。
集中してるだろうから邪魔しちゃ悪いし。
ガラス越しにブースの中の青年の顔をに見る。
デモで既に聞いていたが、さすがに本番の声は違う。これがミックスされてさらにかっこよくなって…
それをさらに引き立てる映像を俺が作らなければいけないとなると気が重…じゃなくて腕がなるってもんだ。

「ちょい休憩ー……ってうわ!おっさんいつから居たんだ!?」
「ん〜15分くらい前からかな?」

ブースから出てきた青年が俺を見つけて驚く。
やはり集中していたのか、俺が来た事には気が付いていなかったようだ。

「声かけてくれりゃよかったのに」
「いやいや、邪魔しちゃ悪いもの。あ、これ差し入れ」

持ってきた洋菓子の箱を差し出したとたん青年の目の色が変わった。

「これ、すげー好きなんだよ!サンキューおっさん!」
「…そう、そりゃよかった」

子供のようにはしゃぐ青年に若干びっくりしたが、気に入ってもらえたのはよかった。
なにせ甘味に関する知識はさっぱりなので、とりあえず話題のデパ地下スイーツなんて物を買ってみたのだが。

「んーやっぱうめぇ!こんなうまいもんあんた食えねぇなんて絶対人生損してるぞ」
「そうかねえ?」

男らしくがつがつと、しかし美味しそうにスイーツを平らげていく青年を俺はブラックコーヒーだけをいただきながら見ていた。
俺にとっちゃ毒にも等しいソレでも美味しそうに食べている姿を見ているのはなんとなくうれしかった。

「どーだった?」
「ん、なにが?」

青年が食べる手を止めてこちらに問う。

「聞いてたんだろ、俺の歌」
「あー、もちろんかっこよかったぜ」
「それだけ?」
「他にいいようがないんだもんよ…あーおっさんも頑張んなきゃねぇ」
「そっか…さて、と。もうひと頑張りすっか」

スイーツとコーヒーをたいらげた青年が立ち上がりのびをする。
俺も飲み終えたコーヒーのカップを置き立ち上がる。

「じゃ、おっさん帰るわ」
「もう帰るのか?」
「さっきの聞いたら新しいアイデア浮かんだからね。早くまとめたいのよ」
「そっか、楽しみにしてるよ」

互いに手を振って、青年はブースに戻り、俺はスタジオを出た。

さて次は俺の本番だ。


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