「この後空いてたら飲みに行かねぇ?」

次に出す曲のPVをレイヴンに作ってもらいたい。
という俺の案が通り、レイヴンを呼んでの打ち合わせ終わり、俺はレイヴンを飲みに誘った。



「おっさん何飲む?」
「とりあえずビールで」
「じゃ、ビール2つ」

店員に注文をし、前に向き直ると向かいの男が軽く睨んでいた。
全然迫力ないけど。

「なんだよ」
「なーんかいつのまにかタメ口になってんですけど?しかもおっさん呼ばわり!?」
「ダメか?いつまでも敬語使うのめんどくせぇんだよ」

と言うと、仕方ないとばかりにレイヴンは息をはいた。

「まあ…変な顔で無理して敬語使われるよりはいいけど」
「あ、あんとき顔にでてたか?」
「多少ね。なんか印象良くなかったかなって」
「だってなんか胡散臭さかったから…大体ハイパーメディアクリエイターって何なんだよ!?」
「色々やってて既存のカテゴリに当てはまらないから便宜上そう言ってる?みたいな?」
「みたいな?っておい…」

レイヴンがあごに手を当てて首をかしげる。
癖なんだろうか、打ち合わせのときから何度か見たな。

「でも、まっさかこんなすぐ声掛けてもらえるなんて思わなかったわ」
「そうか?そういうつもりであれ渡してんじゃねーの?」
「それにしても早いわよぉ」
「あんたの作品見てさ、スゲー気にいったんだよ。次の曲のPVは絶対こいつに作ってもらいたいって思ったから」

そう言うとレイヴンはなんだか赤くなって落ち着かなさげに視線をさまよわせた。

「あー…なんか恥ずかしいわー。でも…そう言ってもらえるのは、嬉しいねぇ」
「今更だけどよろしく頼むわ」
「よっしゃ、おっさん頑張っちゃうよー」

おっ、やっと笑った。
ちゃんと笑えばいい顔すんじゃねぇか。

「飲むか」
「おう!」



「…大丈夫か、おっさん」
「大丈夫よぉ〜」

まあ、まだ前後不覚と言うほどではないが、立派に酔っ払いだ。

「けっこう弱いのな」
「いや〜おっさんが弱いんじゃなくてぇ、せーねんがつよいのよぉ」

と上目遣いで口を尖らせる。
おっさんがそんなことしてもかわいくねー……あれ?そうでもない。

あれ?

「あ、タクシー」

と、レイヴンが手をあげてタクシーをとめる。
自分でタクシーとめられるならまだ大丈夫だろう。

「せーねん自分でつかまえる?」
「あ、ああ…」
「じゃあまたね〜。バイバーイ」
「お、おう。またな」

やべぇ、なんだ、バイバーイって。

あぁ…



かわいい。



俺は35のうさんくさいおっさんにときめいたんだ。


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