そうだ、自分にはこんな幸せな未来は訪れるはずはなかった。
死の淵より呼び戻され道具となったあの日からは想像すらしなかった。
ひどいことをたくさんしたし、たくさんの人に迷惑をかけた。
なのにこんなにあたたかい居場所がある。
先に逝ってしまったやつらにもなんだか申し訳なかった。
だんだん沈んでくる思考と比例して下がってきた頭が、頬に添えられていた手にガッと持ち上げられた。

「いいかよく聞けよ」

彼のまっすぐな目が痛い。
顔を背けたくなったけどがっちり捕まえられていてできない。

「おっさんがそんなんじゃ俺も幸せになれねぇじゃねーか。だから…」
「へ?」
「さっさと観念して俺のために幸せになりやがれ」

あ、だめだ。

ぼろぼろ涙が出てきた。
でも、これは、悲しいんじゃなくて…

突然泣き出した俺を彼はそっと抱き締めて子供をあやすようにやさしくなでてくれた。

「泣くなよ…」
「いまっ、ん、むり、っ。うれし泣きだから勘弁してっ」
「じゃあ、しかたねぇな」

暫くして落ち着いた俺に、彼はそっと触れるだけのキスをして、それから耳元でささやいた。

「なべが焦げるから続きはメシのあとな」
「ばっ!」

真っ赤になった俺の頭をポンポンと軽くたたいてからキッチンに戻っていく彼の背中に何か言ってやりたかったが、結局口をぱくぱくさせるだけになってしまった。


あとがき